田代校長先生より
・ 随時更新、行事等、折に触れて更新していきます。

大変な状況が続いています。卒業生の方々も多くが困難に直面されていることでしょう。茗溪学園は緊急事態宣言直前の2月22日にギリギリ創立40周年記念式典を実施できました。小野寺県副知事、五十嵐つくば市長、江田茗渓会理事長のほか、旧職員は今野先生ご夫妻と中村晃三先生、現旧の理事会評議員会・父母会役員・同窓会役員・後援会役員の方々のご列席をいただき、アゴラホールにおいて無事開催できました。卒業生の方々からも寄付を頂戴し、本当にありがたいです。寄付者銘板を事務室玄関内に設置しておりますので、ご来校の際にご覧ください。
さて、直後の2月29日に急遽終業式を行い、3月1日から臨時休校に入りました。卒業式だけは3月16日に実施し、そのまま政府の要請を受けて4月5月も休校を続け、6月15日から再開、6月20日に入学式を行いました。3か月に及ぶ休校の中、全国の学校で大きなテーマとなったオンライン授業ですが、本校の場合その明暗を分けたのはMicrosoft Teamsの導入でした。
3月上旬にこのパンデミックは長引くと予測し、オンライン授業配信の検討に入りましたが、当時広まりつつあったZoomではなく、セキュリティ面とその後の汎用性の面からICTチームよりTeamsの導入が提案されました。本校は20年前から生徒全員に学校名ドメインの入ったメールアドレスを配布していますが、今は全校舎にWi-Fiをめぐらし、高校生は各自のPCを持参するスタイルをとっています。そこで、新入生含む全生徒と非常勤講師含む全教員のTeamsへの登録を3月中に終え、同時に試験的に導入していたリクルートのスタディ・サプリを全生徒に本格導入し、教師からの配信とともに活用できる態勢を整えました。4月上旬に教科書・教材を全生徒に宅配し、中旬からオンライン授業を開始しました。一方通行にならないように、またホームルームや学年集会、体育や芸術の授業も入れ、Teams以外にもGoogleのClassroom、Forms、Document、Meet、Slideなどのアプリも併用し、かなり充実したオンライン授業が行えたと思います。(榊原先生の世界史の授業がYahooニュースに取り上げられました。)再開後の生徒のアンケートではオンライン授業が「かなり充実」20%、「おおむね充実」65%です。
私の担当する個人課題研究「田代ゼミ」もこの期間オンラインゼミになりましたが、卒業生に助けられました。私のゼミには医学関係をテーマにする生徒が例年多く、Ciniiで検索した医学論文を国立国会図書館の文献複写サービスを利用して取り寄せ、読み込んでいく作業が必須です。しかし3月以降、国会図書館が閉館になり複写サービスも停止されました。大学の図書館も相次いで閉館し、論文の入手ルートが途絶えました。そんな時、ふと思い出した元田代ゼミの連絡先がわかった29回生と26回生の何人かに連絡したところ、勤務先の大学医学図書館から生徒が希望するたくさんの論文のコピーを送ってもらえました。さらにゼミにもオンラインで参加してもらい、貴重な話をたくさん語っていただけました。本当に感謝しています。
学校が再開しても、このTeamsやGoogleアプリの利用は続いています。授業だけでなく、生徒間の様々な連絡に使われていますし、学年父母会や学年集会、さらには生徒会役員選挙の立ち合い演説会や投票にも使われています。菅政権ではデジタル庁が新設されるようですが、学校に起きているこの流れはますます加速していくと思います。

卒業生の皆さん、お元気ですか。この原稿を書いている10月13日は台風19号の影響で日本中が被害を受けました。こういう災害が起きるといつも卒業生は被害を受けていないか気になります。10月12日に予定されていた7回生のホームカミングデーも延期になりました。
さて、この1年間も茗溪学園は歩みを停めていません。報道もされましたが、7月25日に「筑波大学茗溪学園グローバル化推進に関する協定」の調印式を永田学長とともに行いました。これは、外国人留学生を受け入れたり海外に留学生を送り出したりし、大学・高校のいっそうのグローバル化を相互が進める際に互いに有効な協力を行うという協定です。大学でもなく付属でもない一私立高校が国立大学とこのような協定を結ぶのは極めて異例で、それだけ筑波大学の本校への期待の大きさを示していると思います。前回の桐創会だよりでもお伝えしましたが、現在茗溪学園は新たな挑戦を始めています。世界で最も認められている高校課程である国際バカロレアディプロマプログラムIBDPを開始して、今年度初めての卒業生がでます。生徒は期待通りの成長を見せてくれていますし、教職員もIBDPから多くのことを学んでいます。スーパーサイエンスハイスクールの2期目の指定3年目、今年は文部科学省から中間評価を審査されます。すでにこの夏に科学研究で全国大会を勝ち抜いて世界大会まで進んだ2名の生徒が現れています。ひとりは高校の科学研究の最高峰である全国高校生科学技術チャレンジJSECで第3位にあたる科学技術振興機構賞を受賞し、アメリカで開催された世界大会、インテル国際学生科学技術フェアISEFに日本代表で参加しました。もうひとりはつくばサイエンスエッジ2019で上位3位以内の創意指向賞を受賞し、シンガポールで開催されたグローバルリンクシンガポール2019に招待されサイエンス部門オーラルプレゼンテーション部門で第一位のベストプレゼンテーションアワードを受賞しました。この生徒は8月のスーパーサイエンスハイスクールの全国大会、生徒研究発表会においてポスター賞も受賞しています。特筆すべきは、この両名(前者は女子、後者は男子)とも寮生ということです。部活動もし寮生活もしながら時間をマネジメントし膨大な実験を行ってデータを適切に統計処理して考察し、またプレゼンテーションスキルも努力して向上させました。このような生徒が育ってきています。
もうひとつの挑戦である、多くの留学生を受け入れて子どもたちを多様性の中で育成するという取り組みも順調です。1年間の長期留学生も常時5名以上在籍していますが、今年度の4月〜7月期は2週間程度の短期留学生を多く受け入れ、8か国12校から159名の生徒が在校生とともに学び活動しました。この多くは寮に宿泊しましたので、この期間は「国際寮」の様相を呈していました。これも食堂やシャワー棟を改修新設して可能になった事業です。寮生はまるで「国内留学」のような体験をしています。
茨城県は全国の都道府県で最多の公立中高一貫校を設置することになりました。本校は本校でしかできない取り組みを行い、いっそうの魅力を発信していきます。教育実験校茗溪学園、歩みを停めません。

私の目の前に3冊の本があります。1冊めは『「中国残留孤児」帰国者の人権擁護―国家という集団と個人の人権』、2冊めは『超「東大脳」の育て方』、そして3冊めは『いっしょに育つ 惠美さんが残したもの』です。
卒業生の訃報は本当につらいものですが、12年前の2006年9月、25回生で東京大学1年生だった白石惠美(めぐみ)さんの訃報を聞いたときはショックで体がしばらく凍り付きました。大学の海外研修生支援サークルの活動で上海を訪問、元気に帰国した2日後、家庭教師のアルバイトに向かう途中で突然頭痛に襲われ、そのまま意識不明となり亡くなりました。先天性脳動静脈奇形による脳内出血。なんと運命の理不尽なことか。
彼女がどのような茗溪生だったかは3冊めに詳しく書かれていますので、ここでは紹介しません。1冊めの本は、なんと彼女の個人課題研究を出版社が本にしたものです。12月の個人研提出後の翌年、当時の指導担当の山本茂先生の勧めで第9回「図書館を使った“調べる”学習コンクール」に応募、高校生の部で最高賞の文部科学大臣奨励賞を受賞しました。しかし、そのレポートがあまりにも完成度が高く、やさしい表現ながら中国残留孤児に対してあらゆる角度からの情報が集められ解説されており、制度上の対策、社会的・歴史的教育の活性化、報道機関の情報の質的向上、「異質」を受け入れ共存することなどを解決策として指摘してあり、このままでは惜しいと考えた明石書店が高校2年生の授業課題として書いたレポートを、なにひとつ変えずに本にしたものです。
2冊めの本は、白石さんが大学で履修した「情報」の授業の指導教官だった伊藤乾東大助教授(当時)の著作です。授業で卒業論文型レポートの作成を課題にした際、白石さんのレポートを見て驚愕しています。「問題の根と解決の方向性を探るために社会学のモデルを自ら構築して、考察の結果を現実的な問題の本質的解決にまで繋げ、さらに発展的な課題の抽出まで行っている、見識ある立派な大人の仕事」「中途半端な大学卒業論文や修士論文などより、はるかに優秀」とし、典型的な「東大に入って伸びる学生」として白石さんを紹介しています。
そして3冊めは今年の8月に出版されました。著者の島田治子氏は当時目白大学の教授でライターもされていて、偕成社からの依頼で取材を始め、白石惠美さんを知るにつれ「心底おどろいた」「こんな若者もいるのだ!」。43人の関係者に取材を重ね、10年の時を経て形にしてくださいました。限定出版のため書店には並びませんし、購入はできませんが、お母さんのご厚意で本校図書館に10冊寄贈していただきました。こどもを育てる、こどもとともに育つということはどんなことなのか、深く考えさせられます。卒業生の皆さんにもぜひ学園に来られた際などに読んでいただきたい本です。(この文章は3冊めの本の言葉を参考にさせていただき記述しました。)

卒業生の皆さん、お元気ですか。社会の様々な場面で良いはたらきをされていると思います。茗溪学園のホームページやフェイスブックでは学園の活動や生徒の活躍を細かくお知らせしていますので、ご覧になってどう思われているでしょうか。学生時代とは違った、社会人としての目で再び学園を眺め、感じ、考えられたことをぜひ意見交換したいと思います。
N高等学校の人気から見えること
私立学校は民間企業の側面もありますから、常に世の中の動いていく方向や人々の思いの向かう先を見据えておく必要があります。人工知能が日常生活の隅々にまで入り込んでいくとき、学校は、教育はどう変わっていくのか。これは本当にしっかり見据えなければならないことです。私は昨年4月に開校した通信制高校のN高等学校の存在にとても大きな衝撃を受けました。TVでも、六本木のニコファーレでヘッドギアを装着し真新しい制服を着た高校生が大勢でそろって天井を見上げている姿がよく報道されましたので、皆さんも記憶にあるかもしれません。この学校は校舎が沖縄の伊計島にありながら、全国から生徒を集め、入学式は東京・大阪など各地でVRヘッドギアを用いたバーチャル入学式で行われました。スマホなどのオンラインゲームDMMで有名な角川ドワンゴが経営し、理事にスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーを迎え、授業は代々木ゼミナールの有名講師による「面白く、わかりやすい授業」。職業体験や文化祭などの行事にはリアルで参加してもよし、バーチャルで参加してもよく、スタンフォード大学の授業体験やベルリッツと提携した国際留学コースもあります。何より、ゲームプログラミングのプロ集団が作った学校なのでプログラミングの授業が充実しているようです。通信制の高校はたいていは不登校やスポーツでトップを目指す生徒が選択する場合が多いのですが、N高等学校の場合はそうでない生徒も多く入学しました。初年度の昨年は約1500名、今年は約2500名です。私はこの学校の話を聞いたとき、「あ、この学校を魅力的だと考える生徒が多くいるだろうな。」と感じました。この学校には、今世の中が進んでいる方向のキー・ワードがいくつも含まれています。この方向性を重視する人から見たら理想の学校に見えるのではないか。
ついにここまで来たか、という感想です。公立私立に限らず国内の学校がインターネットを活用した授業実践を始めています。しかし、N高等学校の投げかけた問いはそのレベルではありません。学校がもし教師から授業を受けるために存在するならば、「面白くわかりやすい有名講師」の授業が自宅でもどこでも、好きな時間に受けられる場合、生徒は学校に行く必要を感じるでしょうか。すでに大学受験予備校ではこの形態は当たり前になっていますが、これが昼間の中学高校では起きないと言えるのでしょうか。そうなると、とても根本的な問いに答える必要があります。「学校とは何のためにあるのか。」です。
2018年度から寮での留学生の受け入れを始めます
つくば市内の研究所には約3割がアジアからの研究者という研究所があるそうです。筑波大学では留学生とのシェアハウスを今年度から開始しています。日本全体にグローバル化が静かに確実に進んでしますが、学園の周りでも同様です。学園では今年も9月だけでもオーストラリアのSt. Joseph’s Collegeから15名、ニュージーランドのNelson CollegeとNelson College for Girlsから18名の高校生がホームステイでの学校体験に訪れ、同じくニュージーランドのパラパラウムラグビーチームの中高生が17名、ホームステイで交流試合に訪れています。しかし、外国人生徒とともに学びともに生活するという意味での協働体験を子どもたちに提供するには、このようなイベント式の交流では不足だと考えます。そこで、現在の国際交換留学機関の斡旋による交換留学だけでなく、学園独自の受け入れプログラムによる外国人留学生の1年間などの受け入れを来年度から始めます。この場合、ホームステイという形態ではなく、寮で受け入れ、寮生とともに生活しながら日本語も学び、日本語での学習も行うスタイルにします。
寮は寮生希望者の増加に対応して今年度から東西棟を再稼働させています。一けた台の卒業生の皆さんのころにはまだ及びませんが、にぎやかな寮に戻りつつあります。今年の9月から先行して3名の外国人留学生が一緒に生活しています。
教育実験校、歩みをとめず
茗溪学園は中等教育批判にこたえる教育実験校です。「学校とは何のためにあるのか」、この問いから目を背けることはしません。どのような時代になってもこどもたちに必要な力を見据え、育てる試みをやめません。国際バカロレアの導入もそのひとつですが、世界のボーダーレス化が必然の世に基盤となって個人を支える力とは何かを考え、試行錯誤を続けていきます。今回は留学生を増やす試みをお知らせしましたが、多くを試みていきます。応援よろしくお願いします。

卒業生の皆さん、お元気ですか。
1回生が50代半ば、組織で仕事をされている方は円熟味を期待されているポジションにつかれていることでしょう。組織の舵取りに関わられている方も多いのではないですか。
“先を読む”ことが難しい時代になってきました。様々な研究者が語る未来予測を聞くにつれ、本当にこの変化についていけるのだろうかと不安になります。しかし、確実に言えることは、変化の奔流の中でただ呆然としていてはいけない、リスクがあるかもしれないけれど、信じる方向に向かって歩み始める必要がある、ということです。
皆さんの母校を預かって1年半が過ぎました。学園のホームページやfacebookでも情報を発信していますので、その“歩み始め”についてはご存じの方も多いかと思います。それを見て「茗溪も変わってしまったなあ」と思われたかもしれません。勿論、変化すべきところは勇気を持って変化していきます。でも、根本にある“茗溪spirit”は変わっていませんし、もっと、これからの時代にも合ったスタイルでの発展を常に探っています。信じて応援をしてください。
1 国際バカロレア(IB)ワールドスクールに認定されました
今年7月20日、スイスの国際バカロレア機構から正式にディプロマ・プログラムの認定証が届きました。これにより、IB World Schoolの世界約4000校の一員に加わることができ、来年度から高校に1クラス分(25名)のIBDPコースを設置できるようになりました。IBについては昨年の第34号でお話ししました。これもリスクのある選択です。本当に政府の言うように日本の中等教育、高等教育、大学入試が変わるのか。変わらなかった場合はどうするのか。情報収集と検討を重ねてきましたが、何より教育のプロとして判断し、このIBの教育は素晴らしい。長所が短所を大きく上回っています。素晴らしい教育ならやろう。たとえ梯子を外されようと、教育実験校として初代校長岡本稔先生が世に生み出した学校です。リスクは恐れません。
2 新棟を建設します
IBDPコースを実施するにあたり、必要な教室を確保するために新棟(仮称)を建設しています。建設資金として、創立30周年記念のひとつの事業として寄付をお願いし、その後資金を積み立ててきた「講堂等建設積立金」を使用させてもらうことになりました。そこで、講堂に準じるような大きな教室(300名収容)を2階に持つ構造とし、設計監理を6回生の一級建築士である岩佐周明さんにお願いしました。岩佐さんには限られた予算で最大限、学校の希望を反映してもらい、多くの卒業生の力を結集させていただいています。
新棟の建設場所は高校棟の西隣が最適だとなったため、テニスコートを西側に平行移動しました。旧テニスコートはそのまま高校棟南駐車場と接続した駐車場になります。ラグビーグランドが人工芝になって以来、校内の駐車場が不足していましたが、この機会に野外ステージの丘を平地にし、駐車場や生徒の活動ができる中庭にしました。中学棟、高校棟、新棟に囲まれてラグビーグランドまで続くスペースが誕生しました。
3 生徒用トイレがきれいになりました+制服の改訂
生徒会からずっと要望されていた「トイレ」と「制服」ですが、まず高校棟トイレを昨年、中学棟トイレを今年改修しました。生徒はとても喜んでいます。(生徒を優先し職員トイレを後回しにしているところが茗溪らしいと言われました。)制服も、来年度中学入学生(42回生)からの変更を目指して、平成28年10月現在、生徒会が中心になってデザインや生地を選定しています。“紺の無地の上下のブレザー”という基本コンセプトは変更ありませんが、少し軽くなり洗える生地になります。
4 購買部が変わりました
今年度から購買部を経営する業者が変わり、従来の指定品や学用品の販売に加え、弁当や食品等幅広く販売する、まるでコンビニのような購買部に変わりました。来校したらぜひ寄ってみてください。
5 臨海訓練が終了しました
1回生からずっと継続してきた伝統行事の臨海訓練がついに今年で幕を閉じました。気候変動の影響が内房の潮流にも現れ、地元の漁協の人も潮の流れが外れるようになり、生徒の泳力の変化や指導体制の困難さから、事故の起きる寸前と判断し、終了を決断しました。臨海訓練で得られていた精神面の鍛錬を補う取り組みを検討中です。
6 第二食堂に第二厨房ができます
昨年度中旬から食育の見直しをしています。寮生や給食のメニューも見直し、味やボリュームが改善されてきています。更に、主に寮生の食事を充実させるために第二食堂に第二厨房を設置し、厨房面積の問題を解決して調理もしやすく、寮生も利用しやすくなります。10月末に完成予定です。
実はこの他にも変化しようとしている部分があります。来年お知らせできると思います。
ひとつ、皆さんに提案があります。卒業生と教職員たちが情報交換をし合ったり、卒業生同士がお互いに刺激を受け合ったりする機会を持ちませんか。私は、茗溪学園の宝は卒業生だと思っています。ホームカミングデイは素晴らしい企画ですが、卒業期に関わりなく集まり、紹介しあい、励まし合ったりコネクトできる、そういう会がほしいと以前から考えていました。実現を希望します。

卒業生のみなさん、お元気ですか。
柴田淳先生の後を継いで今年度より第7代校長に就任しました田代淳一です。4回生が高校2年の時に1年間化学の非常勤講師をつとめ、8回生が高校3年のときに教諭として茗溪学園に着任しました。以来28年間勤務しています。よろしくお願いします。
1 教育実験校
私立学校は建学の理念、創立者の思いが何よりも大事です。日本が高度経済成長から安定成長期に移行し、良い学校を出ることが良い仕事につく条件とばかりに親も子どもも高学歴を求め中学校や高校が予備校化していった時代、初代校長岡本稔先生が「資金の豊富な私学にしかできない教育ではない、これからの日本に必要とされる教育、公立学校でも参考にできる実践をする学校をつくろう」と呼びかけられ、知育偏重の中等教育批判に応える教育実験校をつくろうとされた壮大で崇高な思いは必ず受け継がれるべきものと私は考えております。
間もなく創立から40年が経とうとし、当時は先進的だった本校独特の取り組みも、視察に来られた学校には丁寧に伝え成果普及に努めたせいもあり、今はめずらしいものではなくなったものも多くあります。教育環境をめぐる変化、こどもたちの変化、時代の要請の変化も敏感にとらえながら、見直すべきものは見直し、更に高度化させるべきものは高度化させ、これからも世に評価される教育実践を試行し、成果を普及できる教育実験校として存続させることが私に課せられた使命だと受け止めています。
2 国際化教育での先進性
ここ数年の、世の中からの教育のグローバル化への要請は非常に強いものがあります。これはもう疾うの昔からグローバル最前線にある国際企業からのしびれを切らした要請だと感じています。帰国生受け入れの準寮制学校としてスタートし、数々の国際理解教育関連の受賞もあり、県内だけでなく全国的にも先進的な国際教育を標榜している本校としては、この機会にさらに前に進み、これからの日本に本当に必要とされる国際化教育とは何かを模索・試行し発信していこうと考えました。そのため、2017年度から国際バカロレアIBのディプロマ・プログラムDPをデュアルランゲージ・ディプロマ(日本語による教育)で実施し、高校部の中に同コースを設置します。現在、日本語で実施可能な科目の翻訳が文部科学省とIB本部の間で進められ、同時に実施予定の学校の教師たちへの研修が進められています。この夏、本校からも多くの教師たちが研修を受け、準備を始めているところです。
国際バカロレアのカリキュラムの素晴らしさは、IBの総本山と言われるユナイテッド・ワールド・カレッジUWCの素晴らしさと共通します。卒業生のみなさんの同期にも高校2年の夏からUWCに留学した仲間もいるでしょうから、その存在はご存じだと思います。茗溪学園は今年までで合計53名をUWC生として送り出しました。たぶん国内で最多だと思います。この素晴らしいカリキュラムの一部でも茗溪学園の教育に取り入れられないかという思いは、亡くなった加納正康先生も含め私たちの長い間の夢でした。
茗溪学園でIBDPを始めるにあたって、ある試みを考えています。それは、IBコースの生徒と普通クラスの生徒を分離せず、一体化させたまま実施できないかというものです。これはすでに先行実施している国内IB校の、どこも実施していないことです。しかし、私たちはこの教育を本当に日本の学校に根付かせるには、別課程とするのではなく日本式の教育に取り込むことが必要だと考えました。また、日本語でIBDPを実施しながらIBカリキュラムの優れた面のうち日本のカリキュラムにも取り入れることが可能な部分をどのように取り入れられるかを考え、試みます。これは単なるアクティブ・ラーニングにとどまらない思想面でも大きな改革になると想像しています。開講まで知恵を絞り、試行案を練っています。茗溪らしい、新しい日本式の国際教育に挑戦します。
3 卒業生に期待すること
茗溪学園の教育実践の成果とは、大学進学実績や行事の成功度、コンクールでの入賞やスーツでの結果ではなく、実は卒業生のみなさんひとりひとりが成果だと考えています。こんなことを言うと叱られるかもしれません。でも本気でそう思っています。ひとりひとりの方々の生き方、あり様、考え方が素晴らしい。社会に出られてからしばらくしてお会いし話をうかがうと、考え方がしっかりされていて、『学び舎の風景』を拝読しても本当に感動する方々ばかりです。長いデフレの時代からようやく脱しかけているのか、グローバル人材を求める世の動きのせいか、「優秀な人材」に対する世間の価値観が従来型からようやく変化してきているようです。見かけの高学歴ではなく、自分の考えや価値観をしっかり持ち、それを表明し、多くの人々と協働しながら集団を明るく前進させる、そういう人間力がより高く評価される世の中になってきているように感じます。そうならば、これからがみなさんの活躍の時代です。たかが中高時代の3年6年の教育ですが、しかし多感な時代の、仲間と一緒に温めた経験です。きっとみなさんの発想の深いところで自信となって支えていると信じています。もしかすると現在はつらい立場にある方もいるかもしれません。きつい状態を何とかしなくては、とプレッシャーに囲まれている方もいるかもしれません。でも、みなさんの中には「困難でもあきらめない」茗溪スピリッツがしまわれているはずです。勇気を出していきましょう。学校も挑戦していきます。